理想のリフォームを実現させた家族を襲った“真冬の悲劇”。間取りと暖房計画の重要性

2024/9/3

中古住宅をリフォームするとき、元の間取りを大きく変更させることはよくあります。しかし、そこで意識しないといけないのが「理想の住まい」と「実際に住むときの快適性」のバランス調整です


今回は、中古住宅のリフォームをしたお客様で起きたある出来事を紹介したいと思います。

とにかく広さが欲しい!と願った北国のお客様に起きた悲劇

このお客様は北国在住の30代男性で、お子様が増えたことをきっかけにマイホームを手に入れようと決断。予算などの都合から中古住宅のリフォームをすることになり、私たちに相談してくださいました。


このお客様は住宅設備や壁紙の色、キッチンのタイプなどに細かなこだわりはなかったものの、唯一譲れないご希望がありました。それは、「シームレスな空間の広々とした間取りにしたい」というものです


リビングとキッチンがひと続きになっているだけでなく、天井高が高く家全体がひとつの空間になっている。そんなシームレスな間取りは、近年若い世代のお客様を中心に人気です。天井が高いことの開放感や、家族がひとつの空間で団らんできる温かな空間を演出できるというのが、人気の秘密なのだと思います。


この点に関するお客様のこだわりは非常に強く、何を差しおいても開放的な空間を実現したい!という意気込みを初回の打ち合わせから話していました。


しかし、ここで懸念となったのが「お客様の住む地域」です。お客様が家を建てる予定だった場所は、真冬になるとひざ下まで雪が積もるなかなかの積雪地帯で、当然気温も氷点下を下回ります。


こうした地域で暮らす場合、住宅には一定の断熱性能が求められます。もっと言えば、「冬にちゃんと暖かい家」でないと、快適性がぐっと下がってしまうのです


冬でも暖かい家であるには、高い気密性、高い断熱性、効果的な空調が必要となります。シームレスな間取りの場合、広い空間を暖めるだけの空調設備も求められるでしょう。しかし、お客様が住む地域でそれを実現しようとすると、ヒーターが何台あっても足りません。


打ち合わせのたびに、私たちはお客様にこの問題についてお伝えしました。しかし、お客様は最終的に「それでもいい」と判断し、希望通りの開放的な空間が特徴的な家を建てることにしたのです。


無事に住宅が建ったあと、はじめての冬が到来しました。例年通りの雪が降り積もった日、私たちのもとへ一本のメールが届いたのです。そこには、お客様の切実な叫びが込められていました。


「リビングが寒くて毛布が手放せません……」

間取りと暖房機能はワンセットで考える

このご家族は現在、暖房設備や暖かい格好をするといった工夫を重ねて冬を乗り切っています。冬につらい時期はあるものの、ご希望どおりの間取りには満足しているらしく、私たちもホッとしているところです(笑)。


中古住宅のリフォーム・リノベーションは、注文住宅などでいちから家を建てるときよりも、その家で暮らすうえで欠かせない「快適性」が軽視されがちです。特に北国での家づくりは、間取りと暖房性能はワンセットで考える必要がありますし、住む地域によって「快適性」は変化します。


とはいえ、いくつもの検討材料に対して、最終的に決断をくだすのはお客様です。今回のお客様のように、間取りを大きくいじるのと同時に暮らしの快適性にも意識を向けるべきでした。それでも、私たちの話を聞いたうえで今の間取りを決定したわけです。


住宅業界の人間としてできることは、住まいの理想を取った場合のリスクや、快適性を無視することのデメリットをちゃんと伝えていくことだと思います。そして、業界関係者が何を伝えたのか、お客様が何に合意したのかを、しっかり記録にしていくことにより、後々のトラブル回避につながるのではないでしょうか。